競争社会でへらへら笑って

司法試験という競争社会の中でもへらへらしてる受験生のブログ

6.模擬裁判(Jessup)について

f:id:azumero:20211218104552p:plain

 

※この記事は旧ブログ(note)で投稿したものです。極力記事の修正はしていません。

 

模擬裁判(Jessup)とは

春休み含め、後期は模擬裁判(Jessup)に明け暮れていたわけですが、その内容を説明しようと思います。なぜなら、こんなことをしたんだと説明すれば、予備試験とロー入試の勉強をしていない違法性阻却事由になるからです()。ということで以下説明。
※私のチームは世界大会の予選(Preliminary rounds)敗退でした(´;ω;`)

Philip C. Jessup International Law Moot Court Competition(ジェサップ国際法模擬裁判大会)は、国際司法裁判所判事の名を冠し1960年にアメリカで始まった、世界で最大の国際法模擬裁判大会です。現在では世界80カ国500を越えるロースクール、大学から学生が参加しています。

国際法模擬裁判とは、架空の国家間の紛争を題材に、学生が原告・被告の代理人として法議論を戦わせるゲームで、法学教育の非常に有効な手段の一つとして欧米では広く行われています。Jessupでは、国連の主要な司法機関である国際司法裁判所(ICJ)を舞台に、ICJでの裁判実務に則り、学生は申述書(メモリアル)と口頭弁論の2つの局面で得点を競います。日本のロースクールなどで行われる「模擬裁判」は、裁判手続を学ぶための「裁判劇」であることがしばしばですが、国際法模擬裁判は、主張の実質まで学生が自ら考える点で、より実際的でエキサイティングなものであり、現役の国際法学者や実務家に担当して頂く裁判官から弁論中に飛ぶ厳しい質問(勿論、質問内容は事前に聞かされてはおらず、あらゆる質問に対する答えを「想定」しておかねばなりません)に的確に答えられるよう、入念な事前準備と練習が要求されます。

題材となる問題文は、世界の第一線で活躍する国際法学者・実務家から成る委員会が起草し、企業の外国投資において極めて重要な二国間投資協定や、テロリストに対する自衛権行使や無人戦闘機使用の合法性、あるいはフランスで見られるような国家による宗教スカーフの禁止など、未だ世界でも答えの出ていない最先端の論点を擁したものとなり、毎年9月の問題文発表から、翌年3月に米国ワシントンD.C.で行われる世界大会まで半年間、学生が集中的なリサーチとプレゼンテーション練習に取り組みます。裁判官を説得し、相手方の主張に反論するためには、事案を完全に理解し、大量の文献・先例に目を通し、それらを利用して自国に有利な立論を行い、書面・口頭で説得的に表現することが求められます。このように、Jessupは、日本の学生にとって「法の実践」に触れる極めて貴重な機会であると同時に、社会で必ず必要とされるプレゼンテーション能力、議論をする力、リサーチ力等を養う場でもあるのです。

また、元来、Jessupはアメリカのロースクールの学生を対象とした大会であり、実際に世界大会出場者の多くはロースクールの授業の一環としてJessupに参加しています。他方日本では、Jessupに限らず、国際法模擬裁判は一般に学部生がサークルやゼミを通して取り組んでいます。従ってJessupの問題文は日本の参加者にとっては相対的に難度の高い課題となりますが、これに取り組むことにより、学生は、教えられるのではなく、仲間と協働して自ら探究する力を身につけるのです。(jilsaホームページより抜粋)」

この説明にすべてが書かれてるからこれ以上補足することもないんですけど、せっかく出場した(しかも今年はイレギュラーながら世界大会まで)ので、詳しく綴ろうと思います。少しでも興味を持ってくれたらうれしいな。

1.問題文

今年の問題文はこんな感じ(問題文)。
まずこの問題文がすごい。19頁も設定がある模擬裁判なんてなかなかない(1年生の時に参加した国内法の弁論大会は2頁だったし、Japan Cupも8頁なかったはず)。
物語としても面白く、小説だって書ける気がする。
なにより裁判に使える事実がちりばめられている。一見どこで使うのかわからない事実もメモリアル執筆段階や弁論の段階でその価値が露わになる。
その上論点(裁判でメインで争うところ)も最新(まだ判例が確立していない)のものが多く、まさに「世界で一番大きい模擬裁判」というにふさわしい問題な気がする。

今年の問題はざっくり言えばこんな感じ:

 舞台は原告・Aprepluya(以下A)と被告・Ranovstayo(以下R)を含む架空の世界でJ-VID18という未知のウイルスが発見されるところから始まる。各国はJ-VID18のワクチンを開発することになるが、Aの国内にある開発拠点NBLで開発メンバーがJ-VID18に似た症状を発症する。しかしNBLはその情報を伏せNBLを閉鎖しない。その状況を見過ごせなかったNBLメンバーの一人、Ms. Keinblat Vormund(以下V)はTwitterNBLの状況をリークし、Aの警察官によって逮捕される寸前にA国内にあるR国領事館(≠大使館)に逃げ込む。A国はVの引き渡しを要求するがRはそれを拒む。そしてRはA国内でJ-VID18が蔓延していることを危惧し、入国規制をかけることになるが、そのせいでAには多額の経済的な損失が産まれることになる。
 一方そのころAとRは世界で暗躍するテロ組織FOJがAもしくはRの首都をテロ攻撃する計画を立てていることを察知し、軍を配備する。そのような中、VはRに計画を告げずに、民間航空機に搭乗して領事館からR本土への亡命を試みるが、Aはその航空機がテロ攻撃であると勘違いをして撃ち落としてしまう。
 AはRの入国規制及びVの引き渡しを拒否したことが国際法に違反すると国際司法裁判所に提訴し、Rは反訴としてVを撃ち落としたことが国際法に違反すると提訴する(裁判所が反訴を審理できない=管轄権という論点もあるけどこれは専門的なので省きます)。かくして国家の威信をかけた国際裁判が始まるのである・・・。

どうでしょう?めっちゃ面白そうじゃないですか?J-VID18なんてまさしくCOVID-19のパクりだし。時事的な問題が含まれているのもJessupの魅力といえるのではないでしょうか。
この問題文をもとに入国規制・領事館亡命・裁判所管轄権・民間航空機撃墜の4つの論点についてAとR両方の主張を考えるのが大まかな流れ。面白いのはどちらの国の代理人としても主張を考えなければならないところ。両者の強み弱みを考えながら自分のチームとしての法的な主張を組み立てるのが、個人的には模擬裁判で一番面白いところだと思います。

2.メモリアル執筆

問題を検討した後は、メモリアルを執筆します。これは、問題に対する自分たちの主張(解答)を文章にしたもの。もちろん全部英語。ページ数は40頁ほど。これが4か月ほど続きます。実はあんまりおもしろくはないのは内緒(笑)。

この段階も大きく分けるとリサーチと執筆に分かれます。

リサーチ
はその問題に関係する各種資料を集めることです。判例の原文や条約の起草過程、国連文書、学説などいろいろな文書を集めて読んで使えそうな部分を探します。これは本当に多岐にわたり、しかもほとんどが英語の文書なので、探すの読むのが非常に大変です。

執筆はその名の通り、リサーチで集めた材料を基に主張を作成します。これも裁判官に見やすいように、自分たちの主張が明瞭になるように記述します。

ここで、法的な主張のぶつかり合いと聞くと、事実認定のことだと思う人が多々いると思います(例えば「この証拠からこの事実がわかる」とか「これが新しい証言だ!」みたいな感じ・・・)。ドラマとかの多くもこの事実認定での駆け引きみたいなのが主におかれています。

しかし、模擬裁判では「きちんと」法的な議論も繰り広げられます。

例えば、今回の問題では、WHOの勧告にも関わらず、Ranovstayoが入国規制を課していました。
そこでAprepluyaとしては改正保険規則42条2項(下記)に違反していると主張します。

42条2項
参加国は、本条第一項に言及する保健上の措置又は第二十三条第二項、第二十七条第一項、第二十八条第二項及び第三十一条第二項(c)号に基づく保健上の追加措置を実施するか否かの決定に際しては、次のものに基づかなければならない。
(a) 科学的諸原則。
(b) 人の健康にリスクがあるという入手可能な科学的証拠、又はその証拠が不十分な場合には、WHO その他の関連政府間組織及び国際機関からのものを含む入手可能な情報。及び、
(c) WHO から入手可能な一切の具体的指針又は助言

この際、AとしてはまずRの入国規制が十分な(b)科学的証拠に基づいていないと主張することが考えられますが、これは基づいている基づいていないの水掛け論になる可能性があります。
そこでこの条文の3つの要素について、考慮する優先順位があると解釈します。すなわち条文には明示されていないが、(c)WHOの助言、がある場合にはまずそれに従うべきである、と解釈するのです。こうすることによって、事実認定で争う前に、そもそもRはWHOの助言を聞いていないのだから違法であると主張することができます。

このように、法律を解釈(もちろん自分たちが有利なように、かつ、説得力ある)して、主張を組み立てていきます。

わかりやすくない例を挙げると、彼氏・彼女に
「寂しくしたから浮気したんだよ!(´;ω;`)」
と言われた場合、皆さんは最初に
「寂しくしてないよ!( ゚Д゚)」
と言いますか?
むしろ、その「寂しくしたら浮気をしてもよい」という前提(法的には規範)をつぶさないでしょうか。
このように(だいぶ無理やりな例ですが)相手の議論の前提に立って話すのではなく、そもそもの議論を自分に有利にしたうえで事実認定を行っていくのが模擬裁判の醍醐味です。

上の事例で言えば

浮気をされた側は
浮気をすることは悪いことだという根拠
→相手は浮気をしたという事実(浮気の定義・事実認定)
→「寂しくしたら浮気をしてもよい」という前提の不存在
→仮にその前提があるとしても寂しくしていない

浮気をした側は
そもそも浮気をしてはいけない根拠はない
→今回は浮気ではない(浮気の定義・事実認定)
→仮に浮気をしていたとしても相手が寂しくしたのが悪い(違法性阻却事由)

というような主張をすることが論理的かと思われます。どうでしょうか?なんとなく主張の流れがわかったでしょうか?(ちなみに僕ならわかりません()

3.弁論練習and本番

メモリアルが完成したらいよいよ弁論です。ここでは自分たちが作ったメモリアルを元に裁判官に口頭で説明します。時間は1人20分ほど。これも全て英語。
この際に面白いのは、弁論をしている際に、裁判官が自由に質問をすることができると言うこと。
弁論者は裁判官の質問に答えながら、自分たちの主張をしなくてはなりません。

この質問が模擬裁判の醍醐味の一つなわけですが、質問の内容もクリティカルなものが多く非常に勉強になります(というか裁判官が怖すぎます)。
まさしく、戦いの中で強くなるといった感じですね。
ちなみに予想外の質問が飛んできた時は、もちろんその場で考えて答えます。冷や汗ものです💦

1チーム45分の弁論を原告役・被告役がそれぞれ行ったあとは、裁判官が勝者を決めて(どっちかは教えてくれない)、弁論のアドバイスをしてくれます。
この時、さっきまで怖かった裁判官の笑顔が見れるときゅんきゅんしてしまいます。

個人的に思うのは、実は学生同士で戦うことがあまりないと言うこと。
メインは裁判官に弁論して裁判官からの質問に答えるという流れ。
もう少し学生同士で戦ってもいいのになぁと言うのが率直な感想です(1年生の時の弁論大会は学生が学生に弁論・学生が学生に質問という流れでした・・・)

実際の戦いがどうだったかは、また別の記事で書こうと思います。
(戦った大学の一つワシントン大学は世界上位48位にランクイン!すごいすごい・・・!!)

+α.判例の使い方

他に、法律ものでよく聞くのは、判例(以前に裁判所が出した判決)ですが、それも模擬裁判では非常に重要です。
判例はその裁判所が過去に出した見解なので、それを根拠に主張をすると非常に説得力が増します。

簡単な例を挙げると、今回の問題ではVが領事館に逃げ込む(庇護)問題が浮上しています。
ここで過去のICJの判例の中には、大使館での庇護を認めない判決が出ています。つまり今回の問題が大使館の問題であれば、おそらく同様の判断が出るでしょう(厳密には判決が他の事件を拘束するわけではありませんが・・・)。
しかし今回の問題ではVは領事館に逃げ込んでいます。つまりは判例とは事案が微妙に異なっています。
そこでAとしてはこの過去の判決が本件にも及ぶ(=大使館の庇護はダメという判決が領事館の庇護の場合にも当てはまる)と主張し、Rは逆に大使館と領事館の違いを主張します。
このように、過去の判例での事案とは必ず異なるはずの今回の事案でも、過去の判決が妥当するのか(判例「射程」が及ぶのか)というのが大事な観点になってきます。

巷で裁判所は判例に従っているだけだからAIが解決すればいいという主張がありますが、それは「おそらく」間違いでしょう(これはAIの定義にもよりますし、僕はそんなに知らないので「おそらく」ですが)。
実際には以前の事案と今回の事案のどこが同じでどこが違うのか(全く同じ事案はほぼないというのがミソ)、裁判所が事案のどのような部分に着目してその判決を下したのか、というのを判断するためには、少なくとも現在では人が行わなければならない者のように感じます・・・。

おわりに

以上のような工程を進んで、晴れて模擬裁判終了という感じです。
実は歴史があるのに競技人口が少ない模擬裁判・・・。
少しでも多くの人が模擬裁判に、ひいては法律に興味を持ってくれると嬉しいですね。

ちなみに、模擬裁判は結構少人数で行うのでチーム内での絆も高まるのも、いいことですね。

 

(*‘ω‘ *)