競争社会でへらへら笑って

司法試験という競争社会の中でもへらへらしてる受験生のブログ

32.死闘 餃子の王将百万遍店①

端緒

残暑も過ぎ去り秋とソクラテスの訪れを感じる9月下旬。

私は左京区百万遍のオアシスに来ていた。百万遍とは京都大学付近の交差点であり、あらゆるチェーン店が軒を連ねる、いわば飲食店のメッカである。

 

メッカ百万遍の中でも一際光を放つ有望店舗、オアシスがある。

そう。「餃子の王将」である。

餃子をはじめ、数多くの中華料理を提供する全国チェーン店である。本店は京都。

栄養バランスなど気にしなくていいんだよ、とでも言いだげなセットメニュー。もう少しだけ食べたいという消費者のニーズにジャストに答えたジャストサイズ。複数人で食べたいものが異なっても安心なバリエーションあるメニュー。そして外はパリパリ中はニンニクとニラが効いた絶品餃子。

勉学、サークル、部活、恋愛、人間関係、ソクラテスと、何かと悩みの多いモラトリアム真っ盛りの京都大学生をその油ぎった胸でしっかりと包み込んでくれる、そんな京大生のマザー・ムーンであり、メシアなのだ。ちなみに付近にあるヴィーガンカフェはサタンということになる。ミヤネ屋や紀藤弁護士や鈴木エイト氏と同じである。なんだか刺されかねないのでこの辺でやめておこう。

なお少し前にナメクジ騒動で話題になった「大○王将」とは全く違う店であることを亡き餃子の王将の社長に代わって付言しておく。

 

京都で下宿してからというもの、餃子の王将百万遍店には大変お世話になった(なっている)。味の濃い食べ物が食べたくなった時、夏バテになった時、友人との会食で場所を探していた時、ソクラテスで失敗してやけ食いしたくなった時。なくてはならない存在であり、だからこそ百万遍の一角を担う豪傑の名を欲しいままにしているのである。

関西ならありふれているのかもしれないが、私の出身の愛知、それも地方ではあまりお見かけすることはない。ここぞとばかりに足繁く通うことになったのである(ちなみに今は会員証までゲットすることができた。これもひとえに皆様のお力添えのおかげである。感謝する)。

 

そういうわけでこの日も、生協のいかにも健康に気を使ってそうな食事に嫌気がさし、百万遍のオアシスに向かった。

 

私は大抵、餃子2人前(1人前分は無料クーポン使用)・ライス中・ニラレバor野菜炒めジャストサイズを注文している。これがマイ・ベスト・オーショウなのである。

しかし夏休み中の散財に伴いギリシャ並みの財政危機が訪れているため、この日はジャストサイズは取りやめである(ギリシャ財政破綻したとかそんなツッコミは求めていない)。

店員も毎回見る顔になった気がしたが、とにかくメガネをかけたお兄さんに注文する。

 

「餃子2人前とライス中で」

 

さて、餃子が来るまで、L'Arc〜en〜Cielの曲を聴きながらしばし万城目学『べらぼうくん』でも読むか。愛用の隠キャ御用達ヘッドンホホに手をかけた時であった。

その声は、音は、確かに私の耳を駆け抜けたの。いわゆる民法複写答案事件における教務課からの帰り道でのセミの音に負けずとも劣らない響いた音であった。

 

 

 

「リャンガーコーテル、????」

 

 

 

 

それは確かにオーダーを受けた店員が店内の調理場に放った言葉であった。すなわち私の注文がなんだったかを伝えることで、何を調理すれば良いのか伝えたのだろう。

だが、しかし、「餃子2人前、ライス中」とは言わなかった。

彼らは(おそらく)本場中国の言葉で注文を復唱しているのである。

 

これが私と王将との過酷な戦いの始まりだとは、この時はまだ誰も知らない。

 

疑問

いったい何と何がリンクしているのか。詳言するなら「注文(日本語)」と「調理場への指示(中国語)」はどのように噛み合っているのであろうか。

この自然とも思える疑問に、さりとて無視できない好奇心を抑えつつ、取り組んでみようと思い至ったわけである。

 

よくよく考えてみれば、わざわざ中国語でアナウンスする必要性がどこにあるのだろうか。

植物に声をかけるとよく育つように、餃子に本場中国語を聞かせることで美味しくしているのであろうか。それが餃子の王将の秘訣ならば私もこれから自分に司法試験考査委員出題趣旨を読み聞かせるようにしてみよう。

 

実は一時期言語学にハマっていた時期がある。言語学オリンピックというものである。クイズノックが動画にしていた。おもろい。

だからこそ、この身近な言語学の疑問にも気付いたというものである。

 

そのような疑問に、課題に直面した際、我々ロースクール生ならばどうするか。

 

解決する。

 

ただそれだけである。

 

制限

ここで読者の皆さまの中には「そんなんググればいいやん」と思った方もいたかもしれない。

そのような方は自己の反知性主義的思考と現代科学への盲目的信頼の現下に大きく反省してもらいたい。

 

当然、私がここで述べたいことは

「自力で」

餃子の王将の謎に挑むべきである、ということである。

 

さて、しかしながら「自力」というのも中々に幅のある語である。

 

ここで私が餃子2人前とライスが来るまでに課した制限を記したいと思う。

①ネットで調べるなどの一切のリサーチ行為の禁止

②店内にある一切の情報は考察対象として良い。

③②には他人の注文に関する情報も加味して良い。

④店内に滞在可能な時間は通常飲食をする程度に限られ、遅延行為はしない。

⑤その他信義に反する行為はしない。

非常にシンプルである。

 

趣旨はただ一つ。餃子の王将とのフェアな真剣勝負。

 

餃子の王将で食事をしている間、私は、1人「餃子の王将そのもの」と生死をかけた戦いをしている。餃子の王将の謎が解けるのが先か、私の健康が害され血尿が出るのが先か。

最後に立っているのはただ1人。

笑っているのも1人。

 

初戦

「餃子2人前と、ライス中になります。」

 

戦いの火蓋は切って落とされた。コロッセオで、私と餃子の王将の死闘が始まったのだ。

観客はいない。これは他人にけしかけられた奴隷の戦いではなく、己が誇りのみをかけて戦う神聖な戦士の戦いなのだ。

 

まずは餃子を一つ。

うむ。

今日も変わらずうまい。パリパリだ。ちなみにほんの時々水でふよふよになった餃子が出てくる時がある。こういう時は縁がなかったと思い諦めるしかない。しかし今日は違う。神がこの戦いを見つめている。パリパリ餃子は神からの餞別なのだ。

 

ひとまず先の注文を確認してみよう。

「リャンガーコーテル」は餃子2人前であろう。

「??」はライスだろう。後半は聞き取れなかったが仕方ない。

 

初手、餃子の王将の大振りの剣は私に向かう。しかしその動きは見切っている。私は強烈な剣を悠々とかわす。

 

ここで「餃子2人前」は「餃子」と「2人前」に分けられることがわかるだろう。ということは「リャンガーコーテル」もひとまずは2語に分けられるはずだ。だがそれ以上がわからない。

ライスを食べる。餃子とライス。これだけで男子大学生は無類の境地に至るのである。率直に言ってうますぎる。

 

ここで唐突に店員が叫ぶ。

 

「イーナーホ」

「チャーハンセットイーナーホ」

 

餃子の王将、こいつ、早々に決着をつけにきたな。

餃子の王将の左手がうなる。大振りの右手攻撃で油断させつつ、すぐさま素手の左手で殴る。鈍い音が餃子の王将百万遍店に響く。

間一髪だった。私はこれまでの10年間の剣道生活で培った動体視力をもって左手の殴打を右手で塞いだのだ。

 

新しい単語が出てきたが、これは同時に、早々に手数を見せてきた失態でもあるのだ。「イーナーホ」何かは知らぬが、相手の技のバリエーションが一つ分かった。先に新技を出した方に負けフラグが立つというのはBLEACHで学んだ鉄則だ。

「チャーハンセットイーナーホ」

ということは「イーナーホ」が「1個」という意味とことか。だがまだわからない。もしかしたら3つの可能性もあるし、チャーハンセット特有の単位なのかもしれぬからだ。

 

餃子の王将の左拳を右手で受け止め、瞬間こう着状態に入っていた。

 

「イーナーホーやぞ」「おい。激ましイーナーホやぞ」

ベテラン店員が新人店員に告げる。どうやら新人店員がミスをしたようだ。

 

きた、こいつ油断している。私は間髪入れず左ジャブをお見舞いする。膝をつく餃子の王将。距離をとり、自分が何をされたのか瞬時に理解し、驚愕と憤怒の狭間のような表情を見せる。

先制攻撃が決まった。いないはずの観客の声援が聞こえる。

 

「イーナーホやぞ」

このセリフからは明らかにイーナーホが単位であることがわかり、かつ、それが「1」を表していることがわかった。一歩どころか3歩前進である。

これはすぐさま決着か?案外餃子の王将も大したことがない。

 

隣の客が店員にオーダーしていた。

「餃子2人まえ+チャーハンで」

 

よし、このまま追撃だ。全集中-。

 

「リャンガーコーテル はんなー?」

 

注文とアナウンスの関連を見つけようとしていたが、そもそもアナウンスが聞き取れないという事態に陥ったのだ。これではそもそも単語が聞き取れない。くそ。やられた。

 

 

追撃の矢先、視界が不良になる。

どうしたー。

 

砂だ。あいつ、膝をついた瞬間に砂を手に持っていたのだ。くそ。油断したのはこちらではないか。あいつは姑息な手も使える。なぜなら必死だから。変なプライドなど捨てている。「本気」なんだ。

 

瞬間腹部に衝撃が走る。やつのボディーブローだ。たまらず腕を下げたくなる。

だめだ。それこそやつの思うツボ。このままガラ空きの顔面に右手の大剣を振り下ろす気だ。ギリギリのところで耐える。しかしTinderの女が使う「ぽっちゃり」になりつつある私の腹だ。ボディーブロー1発が限界である。

 

初老のじいさんがきた。あらかた京大の教授だろう。

注文は餃子1人前。

 

「イーガーコーテル

 

やつの大剣が頭上から振り下ろされる。刀身の奥からは王将の満面の笑み。勝利を確信した者のみが浮かべる安心と愉悦の表情だ。

だが、ボディーブローを耐えた私には奥の手があった。

 

パシッ

 

私は頭上より振り下ろされた大剣をものの見事に両手で挟んだのである。

 

真剣白刃取り

 

極東の島国の、SAMURAIのみが使えるという秘伝。極限状態の人間にできぬものなどないのだ。

 

どういうことか。「イーガコーテル」が餃子1人前であることがわかった瞬間に謎が解ける。

 

イーガ=1人前

リャンガー=2人前

コーテル=餃子

法則を見つけたのだ。

 

同時に私は注文した料理を全て食べていた。ここで初戦は終了である。

まだ全てが解明したわけでない。

しかし私には確固とした勝利への道筋が見えていた。

 

 

 

 

 

 

 

布石

しかしこの時、私はやつの刀身に毒が塗ってあったことを、まだ知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく(なんだこれ)

 

 

 

 

🥟