競争社会でへらへら笑って

司法試験という競争社会の中でもへらへらしてる受験生のブログ

35.捨て刑法判例百選Ⅱ

「えっ・・・・・」

 

凸山は思わず声を出し電柱の陰に隠れてしまった。

確かにあれは、同じクラスの海目くんだ。。。。

 

 

 

 

今日は勤労感謝の日で水曜日なのに祝日だ。週の真ん中が毎週休みだったらどれだけ幸せだろうかと思いながら、でもロースクール生には「休日」はないということを半年間のロー生活で学んだ凸山は、雨の中、重い足取りで自習室に向かっていた。

道中は今日やらなければいけないタスクを考える。明日は後期で一番重たい民事訴訟法総合①があるからそれの予習。それに授業の復習債務もたまっているからそれの解消。さらには自主ゼミの起案が2つ。しかも土曜日には民事法文書作成とかいうよくわからない3時間の起案授業もあるからそれの勉強。。。。

 

凸山は学部1年生からやっていた法律討論会や模擬裁判大会で法律が好きになって、しかも就活とコロナウイルスの流行がかぶり、なんとなくロースクールという道を選んだ。運よく京都大学に合格したときは「私才能あるかも!」とか思ってたけど、実際に入学した後はそれが単なる思い上がりであることに気づいた。上には上がいるのだ。

 

雨の日はなんとなく気分が「晴れない」ので、先日NFのライブを見て感動した小林私の曲を聴く。

 

 

そんな時だった。元田中から京都大学に行く途中、東大路の1本中の道の、小学校前の公園の横で、凸山は海目を発見した。

もちろんクラスメイトを見つけたからといって毎回驚いているわけでは無い。海目が、「あるもの」を見ながらたたずんでいるからだ。

「あるもの」というのは、ロースクール生はもちろん、学部生でも使用する有斐閣出版の「判例百選シリーズ」の『刑法判例百選Ⅱ』だ。しかも第7版。第8版の方は最近出版され、しかも表紙がおしゃれだからなんとなく覚えている。

 

 

 

 

 

 

私は正直、海目くんがあまり好きではなかった。

 

海目くんとは5月にあったクラス飲み会の席で話たことがあるくらいだった。別段普通の、いかにも京大生っぽい男の子で、「優しそう」が似合うクラスメイトだと思っていた。

ただ半年も同じクラスで毎日顔を合わすとなんとなく性格が分かっている。刑法の時間、「責任」分野を専門とする教授のソクラテスメソッドに対し、海目くんはこう言い放った。

 

「それは司法試験にとって重要なのでしょうか。」

 

教室は唖然とした。あんなこと言う子だったんだ。当然先生は怒っていたし、たぶん平常点も下げられただろう。あたりまえだ。

確かに先生の授業はおよそ司法試験レベルとはかけ離れたものだったし、クラスメイトの多くは「よくわかない」と言いたげな顔をしていたのは事実だけど。。。

私はというともちろん驚いていたけど、同時に怒りも覚えた。学部生のときに刑法ゼミである東大系一派の新山ゼミに所属していた私は、刑法のその理論的側面に虜になっていたからだ。特に刑法総論の理論。私がとりわけ過失論がすきだったとか、そんなことはどうでもいい。ロースクールを「司法試験」のためとしか考えていないクラスメイトに、なんとなく自分の勉強とか今の生活とか、もしかしたら人格まで否定されているような気がして、無性にイライラした。

 

あとで知った話だが、海目くんは先日予備試験にも最終合格したらしい。

きっと自習室の本棚には常に予備校の参考書が置いてあるんだろうな。

きっと伊東塾とかサガルートとか辰己とか使ってるんだろう。私は使ったことないけど。

そういうわけでろくに話たこともないのに、academismに対して嘲笑してそうなクラスメイトに、なんとなく嫌悪感ほどではない負の感情を抱いていた。

 

 

 

そんな海目くんが雨の中、道端に捨ててある刑法判例百選Ⅱを見ている。

 

もしかして彼、予備試験に合格したから刑法判例百選捨ててるの??

 

電柱から彼を見る私は、そう思うとふつふつと怒りが湧いてきた。さすがに許せない。本は悪くないのに。

雨なのに汚れが目立つ白い靴で出歩いたことに途中で気づきイライラしていたのと相まって、思わず声を荒げそうになる。

 

 

と思ったら、海目くんはその刑法判例百選を拾い上げた。きょろきょろとあたりを見回す。理由はわからないけど身を隠す私。恐る恐る再度電柱から顔を覗かすと、海目くんは刑法判例百選を木の根元に置いていた。

 

え・・・・・??

海目くんが捨てたんじゃないの。。。?

 

 

 

 

「ほんとは、結果反価値で書きたいんだ・・・・」

 

 

 

 

海目くんは、さながら捨て猫に自分の孤独感を吐露するように、そう語りかけていた。

「なんで行為反価値で実務は回っているんだろうな・・・。過失の構造もおかしいんだよ。。あれは責任要素であるべきなんだ・・・」

海目くんの声は止まらない。

「お前は『反価値』と『無価値』どっち派なんだ・・・?おれ?おれはどっちでもいいよ。。。。でも、こんなこと議論してくれるクラスメイト誰一人いないんだ・・・」

「前、責任分野の大家の先生の授業があったんだ。ソクラテスメソッドされたよ。めちゃくちゃうれしかったし、ずっと議論したかった。でもクラスは、クラスメイトはそれを許さない感じがしたんだ。ロースクールって思ったよりも司法試験のためにあるのかもな・・・」

それからも海目くんは、水分で本来の2倍ほどに膨れ上がった、旧版の刑法判例百選に向かって話つづけた。

 

10分くらい経ったころだろうか。

「わるいけど、俺の家の本棚にはお前を飼うほどの隙間がないんだ。ごめんな。いい人に拾ってもらえることを願ってるよ」

そういうと海目くんは、たぶん自習室に歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

祝日明け、クラスメイトはけだるそうだった。

でも私は違う。民事訴訟法が始まる前、けだるそうな海目くんにこう伝えた。

 

 

「ねね。海目くんって、山口厚『危険犯の研究』読んだことある??」

 

 

「え、、。凸山さん、、だよね。。?えっともちろん読んだことあるよ?」

 

 

「じゃあ瀧川幸辰『犯罪論序説』は??」

 

 

「え、凸山さん結構詳しいの知ってるね。。。実はまだ途中までしか読んだことないんだ・・・」

 

 

 

 

 

 

「じゃあさ。良ければ一緒に読まない?自主ゼミしてくれない・・・かな///」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう言ったあとの海目くんの目は、祝日明けにしては輝いていたように、思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クラスのヤンキ―が捨て猫に優しくしているテンプレを、ロースクール生がやるとこうなるんだよ、ということを書いてみました。

ある程度実話です。